機関誌・老健ほっかいどう:義務化までもう待ったなし!<br>BCP運用のポイント

BCP(事業継続計画)策定の義務化

2024年4月までに、BCP(事業継続計画)策定が義務化されます。
あらためて基本的事項をおさえるとともに、
運用のポイントについてMS&ADインターリスク総研株式会社の田名邉 雄さんに聞きました。

まずは基本をおさえよう! 基礎知識編

●BCP策定の基本

BCP(BusinessContinuityPlan:業務継続計画)とは、大地震等の自然災害、感染症のまん延、テロ等の事件、大事故、サプライチェーン(供給網)の途絶、突発的な経営環境の変化など不測の事態が発生しても、重要な事業を中断させない、または中断しても可能な限り短い時間で復旧
させるための方針、体制、手順等を示した計画のこと。
出典:厚生労働省老健局「介護施設・事業所における新型コロナウイルス感染症発生時の業務継続ガイドライン

BCPにおける考え方の違い

項 目自然災害新型コロナウイルス感染症
事業継続方針●できる限り事業の継続・早期復旧を図る
●サービス形態を変更して事業を継続
●感染リスク、社会的責任、経営面を勘案し事業継続のレベルを決める→正確な情報を基に的確に判断する
被害の対象●主として、施設・設備等、社会インフラへの被害が大きい●主として、人への健康被害が大きい → 業務継続は、主にヒトのやりくりの問題
地理的な影響範囲●被害が地域的・局所的●被害が国内全域、全世界的となる
被害の期間●過去事例等からある程度の影響想定が可能●長期化すると考えられるが、不確実性が高く影響予測が困難
被害発生と被害制御●地震の場合は兆候がなく突発する
●被害量は事後の制御不可能
●海外で発生した場合、国内発生までの間、準備が可能
●被害量は感染防止策により左右される → 感染防止策が重要
事業への影響●事業を復旧すれば業績回復が期待できる●集客施設等では長期間利用者が減少し、業績悪化が懸念される
出典:「介護施設・事業所における業務継続計画(BCP)作成支援に関する研修」資料

【策定のポイント】

これらガイドラインやひな型を基本に、以下も考慮しながら自施設のBCPを策定しましょう。

  1. 職員一人ひとりが自分事として捉えることができるよう、担当者は複数人設定し、組織的に策定する。
  2. 事前準備と事後対応の二つに分けて考える。
  3. 自然災害も感染症も、まずは資源を護ることを念頭に考える。
  4. 万が一資源を守りきれなかった場合も想定し、その場合の代替案および優先事項を検討する。

実践の心得

訓練と研修

 BCP策定とともに義務付けられているのが、それぞれ年2回以上の研修および訓練の実施です。災害や感染症が発生した場合に迅速に行動できるよう、BCPに基づき①施設内の役割分担の確認、②感染症や災害が発生した場合に実践するケアの演習等、を目的に実施する必要があります。訓練は新たな課題を洗い出す意味においても非常に大切です。課題を見つけたら対策を考えてBCPに盛り込み、ブラッシュアップを繰り返します。これを継続することで、適切で実効性のあるBCPに育てていくことができます。

●研修のポイント

  1. 作った人だけわかるものではなく、パート職員を含め全員が理解できる内容に。
  2. 初回は、BCPの概念や目的など基本事項にとどめ、2回目以降から自然災害と感染症に分けて説明するのがベター。一度にすべて情報を詰め込むのではなく、情報量を制限しながら少しずつ理解を広める。
  3. 一方的な説明ではなく、グループワークやクイズを盛り込むほか、イーラーニングなどを用いて学習の進捗状況を確認すると効果的。
  4. 毎回、新しい要素を取り入れるなど形骸化させず、継続することが重要。

●訓練のポイント

  1. 災害対策本部のメンバーなどを中心に実施。
    加えて、部分的にでも、全職員が関われるようなパートをもうける。
  2. 非常時に、個々人が考えて動くことができるような訓練内容にする。
  3. 地域との連携については、自治会や自主防災会組織などを足がかりに協力体制を構築。
    ただし、まずは施設内での訓練が問題なく行えるようになってから。
  4. 行政で開催するBCPセミナーに参加するなど、随時、訓練のアイデアを取り入れる。

実践グループワーク

シーン1. 自然災害編

あなたは「ろうけんエゾ」の管理者です。下記ワークについて検討してください。
“地震発生5分後の施設にて、初動対応内容を検討しましょう”

日時:5月17日(水)13:00
震度:最大震度7(複数の市区町村)
ライフライン:電力/停電、上水道/断水、下水道/使用不可、都市ガス/供給停止、電話/キャリアによる通信制限により非常に繋がりにくい状態

【検討事項】

揺れが収まってから初動対応としてどのような対応をすべきか項目を洗い出して下さい。
BCPに記載する災害対策本部要因の一例です。
自施設のBCPに記載の役職に沿って対応事項を洗い出して下さい。

具体的な項目例管轄主な対応事項
●被害全体、重大事項重傷、建物等の把握
●外部状況の確認 (交通、津波など)
施設長施設内外の状況把握 帰宅/待機の指示 危険区域立入判断 近隣住民への対応
●施設長への状況報告/ 意見具申
●安全なスペースの把握
備蓄施設担当建物安全確認 トイレ対応
配給 宿泊場所の確保
●普段と異なる状況で落ち着かない利用 者に必要な配慮や見守り体制を検討
●電気/水道/ガスなどが利用できない
状況下、臨機応変な対応の検討
サービス継続担当優先業務への注力
利用者対応
インフラ制限下の対応

シーン2. 感染症編

あなたは「ろうけんエゾ」の管理者です。下記ワークについて検討してください。
“利用者が新型コロナウイルスに感染した場合における各業務の 具体的な継続方法をシミュレーションしましょう”

日時:5月17日(水)9:30
事例:ユニットAの利用者Yさん および複数の職員が体調不良を訴えており、 症状からも新型コロナウイルス感染症の可能性が高いと考えられ、 抗原検査を実施したところ、陽性と判明しました。

【検討事項】

下記について業務継続(実施)方法を検討してください。 平時と異なる点を意識しながら、「どのように」という 手順をできるだけ具体的に考えてください。

  1. 関係者への連絡
  2. 外部から受け入れた応援職員への対応

【グループワークの検討内容】

1:関係者への連絡
それぞれの連絡先に、どのような方法で、どのような内容を連絡しますか 連絡をするタイミングや担当者は決まっているでしょうか

2:外部から受け入れた応援職員への対応
応援職員にはどのような業務を依頼しますか 受入れに当たって伝えなければならないことは何がありますか ?

【解説】

  1. 関係者への連絡
    • 連絡先としては、施設・自法人内、保健所・指定権者、感染者の家族、 感染者以外の家族等が挙げられますが、伝えるべき内容(伝えるべ きでない内容)やタイミングは異なります。
    • 伝える内容としては、感染者の個人情報、感染者の普段の状況・病状・ 経過、感染拡大リスクの範囲等が考えられます。
    • 連絡先、連絡内容、タイミング等を、わかりやすい形でまとめておきま しょう。
  2. 外部から受け入れた応接職員への対応
    • 応援職員の派遣元としては、同一法人内の他施設、地域の連携する 施設、退職した職員、人材派遣会社等が考えられます。
    • 派遣される職員の職種も考慮する必要があります。
    • 上記を踏まえ、受入れ時にどのような業務を依頼するのか、業務実施に当たりどのような情報共有が必要かを事前に整理しておきましょう。

【例】

依頼する業務説明すべきこと
1食事介助●入所者ごとの介助方法
●食事ケア時の感染防止対策
2排泄介助●排泄ケア時の感染防止対策
●排泄物の処理方法
3消毒・清掃作業●物品の場所、管理方法
●消毒・清掃方法、タイミング
出典:MS&ADインターリスク総研株式会社 全老健「BCP支援セミナー」資料より抜粋

変化に応じて更新し続けよう

東日本大震災や新型コロナウイルス感染症などを経験している方が多いため、案外、対応策は整理されている老健も多いのではないでしょうか。BCPというと難しくとらえがちですが、これまでやってきたことを文章に起こせば、どの老健でも作成は出来るはず。
あとは適切な運用を目指し、変化に応じて更新をし続けることが大切です。

老健ほっかいどう vol.14/2〜4P
令和5年1月発行

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