機関誌・老健ほっかいどう:今求められる認知症ケア特集

2024年は認知症基本法の思考にはじまり、介護報酬改定では認知症チームケア推進加算が新設されるなど、これまで以上に認知症ケアへの対応の強化が求められています。
新たな対応策を検討しつつ、あらためて基本に立ち返り、より良い認知症ケアに取り組みましょう。

すべては円滑なコミュニケーションから

認知症ケアの根底にあるのは、すべて人間関係だというのが私の考えです。ユマニチュードやタクティール、バリデーションなど認知症ケアに有効とされるさまざまなテクニックもありますが、そもそも相手との人間関係が良好でなければ手を取ってマッサージなんてできません。ましてやオムツ交換や入浴介助といったプライベートに関わる行為であればなおさらです。相手はどんなに認知症症状があろうが、ちゃんと私たちケアする側のことを見ています。それなのに、自分を省みず介護拒否や暴言を吐くなど問題利用者扱いしてしまうことはいないでしょうか。

相手が思うような反応をしないとき、ふと立ち止まって自らのふるまいを見直すこと。認知症状のある方だけに限りませんが、ケアはすべて自身の鏡となるものだと思ってください。

多職種で情報収集・共有を

では良好な人間関係には何が大切かと言えば、礼儀・礼節をもって相手への敬意を表すことです。目を見て話す、立ち止まって挨拶をする、ほんの些細なことですが積み重ねることで人間関係は良い方向に変わるはずです。これはスタッフ間でももちろん同じです。

これを基本とし、あとはいかに専門性を発揮できるかどうかが問われます。たとえば認知症状がある方でも、「手続き記憶」は残っていることが大半です。調理や楽器の演奏など長年の経験や繰り返しによって獲得し、身体で覚えていること、もっと言えば脳が覚えている動作のことを指します。相手によってどのような手続き記憶が残っているかを見極めるのが私たちプロの仕事です。

また、毎日同じ声かけをして上機嫌の反応が返ってきた人が、その日は不機嫌な対応だった場合、どうしていますか?寝れているか、水分はとれているか、アセスメントのときだけでなく常に頭のなかで利用者さんの情報収集を行う状態であることも、私たちに求められる能力です。ここでは、多職種が異なる視点のもと当事者を中心にトライアングルのように見守ることで、より質の高いケアにつなげることができるでしょう。今回新設となった認知症チームケア推進加算で求められているのは、そのような視点だと思います。

2024年度は認知症に関わるさまざまな施策が打ち出されていますが、本来はこうした制度や法律なんてないほうが良いと思っています。ルールが設けられるということは、社会が未熟だから必要になってしまうことも意味しているのではないでしょうか。

今回の取り組みをきっかけに、あらためてケアや生活の質向上の実践に結び付けられるよう気持ちを引き締めて取り組んでいきましょう。

ケース1:家族の不安解消がカギ

社会福祉法人函館厚生院 ケンゆのかわ(函館市)
・入所:150人(一般100床、認知症専門棟50床)
・通所:53人
・コンセプト:認知症を言い訳にせず、その人らしい生活を実現する!

●認知症ケアのポイント

1.専門的知識を有する職員を計画的に増やす

現状、実践者研修課程修了者が3人、リーダー研修課程修了者が5人在籍。今年度中に、実践者修了者をさらに3人、認知症指導者研修修了者1人が加わる予定。「誰かが異動になって加算算定ができないという事態にならないよう備えは万全にしています」(畑中さん)

2.専門棟におけるグループごとのケア

認知症専門棟では資格者を含めたグループごとで認知症ケアを実施。ケースカンファレンスや勉強会も開催している。

3.在宅復帰前後の手厚い家族フォロー

在宅復帰が可能な利用者は、家族への支援が肝。在宅復帰するうえでの不安要素を聞き、要望に応じてベッド移乗やオムツ交換などのケア方法を集中的にレクチャー。在宅復帰中も困ったことはないか確認するほか、トラブル時はすぐに駆け付ける体制を整えている。 「認知症がある方でも、在宅で困るのは他の方と同じくケアにまつわる課題のため、この解消に努めています」(畑中さん)

●加算について

認知症短期集中リハビリテーションは、通所リハビリにおいては全員算定中。
認知症チームケア推進加算は、「Ⅰ」の取得を目指し、目黒さんが認知症指導者研修を受講予定。北海道の推薦枠に見事選抜され、仙台で講習を受ける。「認知症の方が自分らしく過ごすためにはケアする側の専門的な知識は不可欠です。専門的知識を持った職員を増やし、より良いチームで認知症ケアに取り組んでいきたいです」

●成功STORY

自家製ジュースが人気を呼び笑顔を取り戻した女性

認知症状の進行とADL低下にともない不穏だったため、趣味だった園芸を取り入れて赤しそのタネを蒔いて育てるリハビリに挑戦してもらった。収穫物で職員と一緒にジュースも作って認知症カフェで提供したところ大好評を呼び、本人も大満足。在宅復帰となりリピート利用を継続している。「人に喜んでもらえることがご本人の励みになったようです。今後も、その人らしい生活を支え、認知症があっても地域で支えていけるよう理解を広めていきたいです」(目黒さん)

ケース2:適切な生活環境を多職種で整備

社会医療法人母恋 老人保健施設 母恋
・入所:100人(一般75床、認知症専門棟25床)
・通所:50人
・コンセプト:その人を知って寄り添うケアで、その人らしさを後押し!

●認知症ケアのポイント

1.専門棟の効果的な運営

人員配置も手厚く、より個別性に特化できるのが専門棟の良さ。利用者の中で2、3人くらいの小グループができてくると安心して穏やかになるケースも多い。「安定したグループができれば、そのまま一般棟に移っていただくこともあります。安定した周辺環境は保たれたまま、病床 稼働も担保できます」(佐々木さん)

2.安心な生活環境を多職種でつくる

短期記憶や見当識が低下していくなか、安心した生活環境を施設・在宅において整備することが大切。そのため、夜間の介護職員や在宅での ケアマネジャーとの情報共有も小まめに行っている。「生活リズムの安定に大きな影響を与える排泄に関わる調整が最も多いです。安心した生活は ADL向上にもつながります」(高橋さん)

3.できること・できないことの気付きを促す

短い時間のなかで効果的なリハビリを行うには、本人の能力を知ることが最優先。生活するうえで課題となるような部分を認識し、代償方法も身に付けてもらいつつリハビリを行う。

●加算について

認知症短期集中リハビリテーションは、入所で10人程度を算定中。短期集中リハビリ加算をメインにプラスαで実施。認知症チームケア推進加算は、「II」の算定を計画中。早急に研修受講をすすめ、体制を整備する。

●成功STORY

ノンアルコールビールを提供する居酒屋レクを開催

認知症状に加えアルコール依存症の診断もあったことから、不穏が著しく施設の外に出ようとすることもあった利用者。少しでも気が紛れるようにと、ノンアルコールビールを提供する居酒屋レクを開催したところ、楽しそうに他の利用者さんと会話を楽しむように。「これ以来、部屋を出入りする際にドアの開け閉めをかって出てくれるなどの役割も見出し、落ち着いた生活を送ることができています」(佐々木さん)

ケース3:多彩なリハビリで認知症を予防

医療法人晴生会 介護老人保健施設 グラーネ北の沢
・入所:100人(一般50床、認知症専門棟50床)
・通所:160人
・コンセプト:安心して穏やかに過ごせるよう支援する!

●認知症ケアのポイント

1.グループごとのケア

資格者を含めたグループごとに認知症ケアを実施。多職種で情報共有 を行い、課題や改善策などを話し合っている。「在宅復帰するためには何 が必要かといったことも議論しています。小規模で話すことで具体的な改善案が生まれやすい利点があります」(高野さん)

2.多彩なリハビリプログラムで認知症を予防

通所リハビリはMCI予備軍の危険性がある要支援者が多いが、そこから認知症に移行しないようバラエティに富んだプログラムを用意。ゲームや調理、外出リハビリ、モルックなど楽しみながら身体を動かすメニューがそろっており、施設内通貨も導入している。「記憶に残るような楽しい空間を演出し、リハビリが苦にならないような工夫を凝らしています。なかには要介護から要支援に戻る利用者さんもいます」(安藤さん)

●加算について

認知症短期集中リハビリテーションは、入所で算定中。「その方に適したプログラムを模索しながら構築していくことを大事にしています」(髙橋さん)
認知症チームケア推進加算は、検討中。グループごとのケアは10年前から取り組んでおり、基盤は構築されている。

●成功STORY

発症前まで従事していた造園の仕事をプログラムに導入

認知症状に加え、脳梗塞で失語症も併発していた男性利用者。ベッドに横になったきりリハビリ拒否も見られたため、発症前まで従事していた造園の仕事をプログラムに導入し、敷地内の木の選定をお願いした。弟子にもらったという剪定バサミを使い、リーチ動作や握力改善に努め、在宅復帰が実現。「剪定だけでなく、木の近くまでは坂や砂利道もある歩きにくい道のりなのですが自力歩行も可能になりました。施設長から感謝状も贈呈され、ご本人の自信になったようです」(髙橋さん)

ケース4:アクティビティでワクワク感を創出

社会福祉法人釧路創生会 介護老人保健施設 老健たいよう
・入所:98人
・通所:40人
・コンセプト:アクティビティを通じてその人らしく生活できる支援を!

●認知症ケアのポイント

1.アクティビティケアで心の栄養も補給

6年前から高齢者アクティビティ開発センターの「アクティビティ・ケア宣言施設」の認定を受け、宮下さんをはじめディレクターやインストラクターが複数在籍する。幼稚園児へのプレゼント製作やパークゴルフ、お菓子作りと いったその人ならではのプログラムを実施している。「生活歴やスタイル、好きなことに着目し、日常のなかでもワクワクやドキドキを感じられることを考案しています。活動前後の利用者さんの変化を捉え、次の関わりに活かしています」(宮下さん)

2.リハビリ評価でできることを見つける

アクティビティケアを行うには、注意が必要な場面も多い。そのために沼口さん らセラピストが事前に評価を行い、危険な範囲をしっかり把握する。「『危ないからやめる』のではなく、できることを見つけて役割を担ってもらえるよう心がけています。達成することで、利用者 さんだけでなく私たちの自信にもなっています」(沼口さん)

●加算について

認知症短期集中リハビリテーションは、入所・通所で算定中。認知症チームケア推進加算は、検討中。認知症指導者研修は桶谷さんが取得、認知症ケア専門士も複数名在籍している。

●成功STORY

利用者の様子を時間単位で観察できるようシートを作成し、多職種で記録。

入所初日から帰宅願望があった利用者。その落ち着かない様子に家族の言葉も強くなり、さらに利用者は興奮状態に陥るという悪循環に……。入所しても帰宅願望は収まらなかったため、不穏時の様子を時間単位で観察できるようシートを作成し、 多職種で記録。結果、帰宅願望には理由があることがわかり、対応を行った。「飼っていた犬に餌をやりたい、息子にご飯を作りたいときに帰りたくなることが判明。犬の写真を持ってきてもらったほか、一緒にご飯をつくることで徐々に落ち着きを取り戻しました。ご家族にもたくさんコミュニケーションを取ってもらうよう働きかけたことで、どちらにも笑顔が増えました」(桶谷さん)

老健ほっかいどう vol.16/3〜5P
老健ほっかいどう vol.16/7P

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