機関誌・老健ほっかいどう:学生に選ばれる施設づくりのヒント

介護学生の現場実習が実施される季節となりました。
学生は実習を通じて、職員の指導や職場の雰囲気を肌で感じ取り、「ここで働きたい」かどうかを見極めています。
では、学生に選ばれる施設になるためには、何が求められるのでしょうか。せいとく介護こども福祉専門学校の
福江先生のお話をヒントに、採用という視点からこれからの施設づくりの方向性を考えます。

答えてくれた方
学校法人西野学園 せいとく介護こども福祉専門学校
介護福祉科 専任教員 福江 靖彦さん(介護福祉士)

札幌市内の高齢者施設で24年間にわたり介護職として勤務。主任として採用面接や新人教育、実習生の受け入れなどの業務を担当してきた。豊富な現場経験を生かし、現在はせいとく介護こども福祉専門学校介護福祉科で教鞭をとる。このほか、社会人を対象とした資格取得講座の講師も務めるなど、幅広く介護人材の育成に貢献している。

給与より”自分の時間” 今の学生が注視する労働条件とは?

ーー就職先を選ぶとき、学生はどんな条件を重視していますか?
 真っ先に挙がる条件は、給与や待遇ではなく、ワーク・ライフ・バランスです。今の学生は、自分の時間を大事にする傾向があり、業務の枠組みが自分に合っているかどうかを重視します。「一晩通しの夜勤には抵抗がある」という声もよく聞きます。それは夜勤業務への不安というより、自分の生活スタイルを保ちたいという気持ちの表れだと思います。

ーー収入面よりも生活スタイルの維持を優先する、ということでしょうか?
 その傾向が強いです。夜勤をする方が収入としてはプラスになりますが、学生はあくまで「自分の生活スタイルに合っているか」「自分が思っている介護の仕事ができるか」に重きを置いています。夜勤の体制は施設によってさまざまで、二交代制を取り入れているところも出てきています。そうしたところに注目しながら、職場を探しているという印象がありますね。

ーーワーク・ライフ・バランス以外で学生が注視するポイントは?
 今の学生、特に留学生は車を持っていない人が多いので、送迎バスがあるかどうかなど、通いやすさもチェックしています。また、通勤にかかる時間もワーク・ライフ・バランスに影響すると考えています。通勤時間が長くなるほど、自分の時間が減ってしまうため、そうしたところも含めて職場を検討する学生は少なくありません。
 キャリアアップのための体制や環境が整備されているかも、就職先を選ぶときのポイントの一つになっています。いろいろな研修や大会に参加できることは、学生にとっても魅力的に映ります。私は、社会人を対象とした講義も行うのですが、受講者の中には業務扱いで参加している方もいれば、有給休暇を使って参加している方もいます。資格取得を目指したり、スキルを磨いたりするための環境が、法人あるいは施設として整っていれば、働く上でのモチベーションアップにつながるでしょう。

「安心できる環境」がカギ。実習生の心をつかむ受け入れ方

ーー就職先選びには、労働条件以外に実習での経験も影響すると思います。学生が「良かった」と感じる実習先には、どんな共通点がありますか?
 1つ目は、職員の指導が丁寧で優しいことです。学生は緊張と不安を抱えて実習を行います。こまめに指示や声かけをしてくれる指導者の方がいることが安心につながり、施設に対して良い印象を持つようです。
 2つ目は、指導の統一性です。「昨日はこう言われたけど、今日は違うことを言われた」という状況は、学生を混乱させてしまいます。どの職員さんに聞いても同じように答えてくれるということも、学生の安心につながります。
 そして3つ目は、学校で学んだことと現場でのギャップが少ないことです。まれに、実習を終えた学生から「学校では利用者本位のケアをするよう学んだけれど、現場では安全面などの理由から異なる対応が必要な場面もあり、戸惑った」という声を聞くことがあります。勉強したことと違うことが施設で行われていると、混乱したり疑問を抱いたりするので、もし学生からこれに類する質問があった場合は、丁寧にフォローをしていただけると彼らの不安も解消できると思います。

ーー安心して実習ができることで好感を持つのですね。では施設として、実習生の受け入れに大切なことは何でしょうか。
 職場に良い雰囲気を醸成することは、老健に関わらず大切だと思います。職員間での挨拶がある、お互いを尊重しつつフラットに話せるなど、アットホームな環境の施設は、学生にも人気が高いです。
 高齢者施設という視点で考えたときには、私は、介護職だけでなく施設全体で受け入れる姿勢が大切だと感じています。実は私自身も介護職として働いていました。その経験からいえることは、学生は「みんなに受け入れられている」と感じると、安心して実習に臨むことができるということです。介護現場は多職種の連携によって成り立っています。施設長や看護師、リハビリ職、栄養士など、さまざまな職種が学生に関わる機会をつくることで、学生にとっての学びにもなりますし、施設への親しみや安心感にもつながっていくと考えています。

養成校で進む、留学生比率の急増。受け入れ体制の確認を

ーー介護福祉士を目指す学生のうち、留学生の割合が増えていると聞きますが、実感はありますか?
 介護・福祉の養成校では今、学生の構成が大きく変わりつつあります。本校の介護福祉科では、1年生37名のうち29名が留学生と、約8割を占めています。2年生も22名中14名が留学生です。3〜4年前は日本人と留学生が半々程度でしたが、ここ1〜2年で留学生の方が多くなりました。

ーー日本人が少なくなっているのはなぜでしょうか?
 インターネットやSNSが普及して、ほかの職種の環境や待遇が簡単に調べられるようになりました。さまざまな情報を踏まえた上で進路を選ぶ学生が増えています。介護は他業種と比べると給与水準はまだ低い面もあり、それが影響していると思われます。ただ、介護業界の待遇は改善傾向にありますので、そうした情報発信をしていくことが大切だと思います。

ーーなるほど。その一方で、留学生が増えている理由は何でしょうか?
 日本の介護の取り組みは、他の国にはない「最先端で進んだもの」と捉えられています。自国ではまだ発展していない分野であるため、日本で学び、その技術を自国に持ち帰りたいという意欲のある学生が多くいるのです。
 また、多くの留学生は、施設に学費を貸与してもらい、卒業後にその施設で5年間働くことで、返還義務を免除してもらう契約を結んでいます。卒業後の進路が確保されている仕組みも、留学生が日本の介護福祉士養成校を選ぶ大きな要因となっています。

ーー留学生をスタッフとして受け入れるときに、特に重要な対応を教えてください。
 仕事面だけではなく、生活面のサポートも行うことが重要です。就職が決まっても、住む場所を探すのに苦労したり、日本人の身元保証人が見つからなくて困るケースもあります。連帯保証人や緊急連絡先に日本人が必要という条件は、留学生にとって大きなハードルです。学校にいる間は学内の相談窓口でサポートできますが、就職後は施設側が対応の主体となりますので、住居や保証人について、法人あるいは施設で確保できる体制を整えておくことが大切です。

ーー言葉の面での配慮やサポートも必要になりますか?
 はい、必要ですし、重要です。留学生は、説明した内容が理解できていなくても、「わかりました」と答える傾向にあります。日本人の実習生以上に細かく声をかけたり、気にかけたりすることが、留学生の理解を促すきっかけとなるでしょう。
 また出身国によって、日本語を学ぶ上での得手不得手があります。例えばネパール出身の方の中には、話すことはできるけど読み書きは苦手という方もいます。漢字の文化がある中国出身の方では、読み書きはできるけど話すのは少し苦手という方もいます。学校で指導する際は、個々の弱い部分を把握したアプローチをするよう心がけています。

ーーほか、留学生と働く上で留意したいことは何でしょうか?
 職員が「育てる意識」を持つことです。今後はどこの施設でも、外国人と一緒に働く機会が増えていくと思います。実習生の受け入れは単なる教育協力ではなく、将来の人材確保につながる大切な機会と捉え、組織全体で留学生をフォローし、成長を促す環境づくりをしていくことも重要だと思います。

ーー最後に、実習生を受け入れている老健へのメッセージをお願いします。
 実習生は、未来の仲間の候補です。指導が大変だと感じることもあると思いますが、学生が安心して実習できる環境をつくることが、施設で働く職員にとっても居心地の良い職場づくりにつながっていくと思います。ぜひ、施設全体で迎え入れるという意識を持って対応していただけたらうれしいです。

老健ほっかいどう vol.20/P3〜5
令和8年7月発行

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